プログラミング上達の第一歩は“名前付け”だった|構造を守るコードの書き方

プログラミング

はじめに:なぜ名前付けが重要なのか

プログラミングを始めたばかりの頃、
「書けるようにはなったけど、うまく整理できない」と感じたことはありませんか?

動くコードは書ける。
でも、あとで見返すと「これ、どこに何が書いてあったっけ?」と迷子になる。

この“整理の難しさ”の正体は、名前付けが設計とつながっていないことにあります。

名前付けは、単なる単語選びではありません。
それは「設計を現実化する行為」。
つまり、“頭の中にある構造”を“現実のコード”に落とし込むための、最後の翻訳作業です。

名前を整えることは、構造を整えること。
設計が崩れるとき、最初に乱れるのはいつも名前です。


名前付けは「責任分担の明確化」である

設計とは「レゴの設計図を描くこと」

システム開発を「レゴブロック作り」にたとえてみましょう。

  • 要件定義:どんなブロックを使うか決める(=必要な部品を選ぶ)
  • 設計:それらをどう組み合わせて構造にするかを考える(=設計図を描く)
  • 実装:設計図をもとに、実際にブロックを組み立てる工程

このとき、要件定義は「使うブロックの種類を決める」段階です。
設計では「この赤ブロックは屋根に、青ブロックは壁に」というように構造を考える
そして実装は、その設計通りに手を動かして形を作る


このとき大事なのは、組み立てながら迷わないこと。
レゴを何も考えずに積むと、「これ、どこに付ければいいんだ?」となって途中で崩れますよね。
設計はそれを防ぐために“組み立て方の筋道”を決める作業です。
そして、実装でそれを守るのが――名前付けです。


名前は“ブロックに貼るラベル”

プログラムにおいて、名前はレゴブロックにつける「ラベル」です。
ラベルがあるから、他の人が見ても「これが屋根のブロックだな」と分かります。

コードの単位レゴでのイメージ
ディレクトリ街の区画/users, /orders, /reports
ファイル建物createUser.ts, getReport.ts
関数部屋calcTax(), sendEmail()
変数家具user, invoice, totalPrice

たとえば、「/users」という区画に「createUser.ts」という建物があれば、
「これはユーザー関連の処理なんだな」と自然に理解できます。

でも、もし全部の建物の看板が「common」や「data」だったら?
街を歩くたびに迷子になります。
ラベルが曖昧だと、どんなに立派な街でも“構造”として機能しません。


責任分担が曖昧だと街が崩壊する

プログラムも同じです。
「Manager」「Common」「Util」みたいな名前は、一見便利そうですが――
これは“なんでも置ける巨大倉庫”のようなもの。

最初は動きます。
でも、時間が経つと誰もその倉庫に入りたがらなくなる。
理由は簡単。
どこに何があるか、誰も分からないからです。

名前が曖昧になると、責任の線が消える。
設計が崩れるのは、その瞬間です。


名前付けの良し悪し

良い名前とは「責任を一言で言い切れる名前」

良い名前のコードは、ファイルを開かなくても“何をするものか”がわかります。
それは、街を歩いたときに「ここは図書館」「ここは郵便局」と看板で理解できるようなものです。

fetchUser()        // ユーザーを取得する
updateProfile()    // プロフィールを更新する
calcOvertime()     // 残業時間を計算する
formatPayslip()    // 給与明細を整形する

短くても、明確。
「責任の範囲」がひと目で伝わる。
こうした名前が並ぶと、コード全体が“秩序だった街”のように整っていきます。


悪い名前とは「なんでもできる名前」

悪い名前は、一見便利で柔軟そうに見えます。
でもそれは、「多目的ホール」のようなもの。
どんなイベントも開けるけれど、何も専門的に機能しない。

handleData()       // どんなデータ?
processManager()   // 何を管理?
commonUtil()       // 共通って、どこまで?

「便利そう」で始まったはずが、
時間が経つと誰も近寄らなくなり、
ついには「ここ触ると壊れるからやめよう」となる。

良い名前は構造を守り、
悪い名前は構造を壊す。


名前付けのプロセス:ロジックと往復する

良い名前は、最初から出てくるものではありません。
建てて、眺めて、直す――この往復で磨かれていきます。

  1. まず建ててみる(部屋を作る)
  2. 暫定で名前をつける(看板をつける)
  3. 名前に違和感があるので、建て直すまたは新たに建てる(部屋を作る)
  4. 再度、名前をつける(再度、看板をつける)

🏗️ 最初の段階:名前付けが考えられていない

最初は、動くものをとりあえず作りたくてこう書きがちです。

function handlePayroll() {
  const data = getData();
  const result = processData(data);
  saveResult(result);
}

一見まとまっていますが、
中で何をしているのかが読めません。
「どんなデータ?」「どんな処理?」「どこに保存?」が不明確。

つまりこれは、“倉庫の中に机がひとつだけある建物” のようなものです。
入っても何をどこでやっているのか分からない。


🏠 改善:名前をつける

部屋ごとに看板をつけます。

function handlePayroll() {
  const records = fetchMonthlyRecords();        // データを取得する部屋
  const salaries = calcMonthlySalary(records);  // 給与を計算する部屋
  uploadPayslipCsv(salaries);                   // 明細を出力する部屋
}

これで、建物の中の動線が一気に明確になります。

  • 「どんなデータを扱っているか」
  • 「どこでどんな処理をしているか」
  • 「最後に何を出力しているか」

すべてが名前から伝わるようになります。


名前がロジックを導き、ロジックが名前を磨く。
命名は、構造を育てる“往復運動”です。
このあとに「handlePayroll」の再名前付けをしたり、分割したりします。


名前付けは設計力を伸ばす

名前付けをするということは、そのコードの責任を明確にすることです。
「この関数はどんな役割を持つのか」「どこまでを担当し、どこからを他に任せるのか」。
その線を引く瞬間が、まさに設計の瞬間です。


🧱 設計の粒度によって、実装でも“設計”が必要になる

設計とひとことで言っても、その具体度(粒度)はプロジェクトによって違います。

たとえば、ある開発では──

設計の段階で「この部屋のどの棚(家具)に何を置くか」まで決まっていれば、
実装ではただ配置するだけです。
設計が精密であるほど、実装は機械的に進みます。

一方で、設計が「このフロアは飲食エリアにしよう」くらいの大まかな段階で止まることもあります。
これは決して悪いことではありません。
むしろ、現時点で得られる材料や時間の範囲では、ここまでしか具体化できないという判断のもと、
“設計を完了として実装に進めている”ケースも多いのです。

設計というのは、理想的にすべてを決めることではなく、
現実的な制約の中で「どこまで決めるか」を見極める判断行為でもあります。

そのため、こうしたプロジェクトでは、実装フェーズに入ってから
「どんな店舗を入れるか」「動線をどう取るか」といった、
小さな設計判断を現場で積み重ねていく必要があります。


🪶 その“小さな設計判断”の単位が「名前付け」

このとき、エンジニアが行うのが名前付けによる構造化です。

たとえば、コードを書いているときに
「この関数は fetch(取得)か build(組み立て)か?」
「このファイルは service(処理)に置くべきか view(表示)に置くべきか?」
――そう考える瞬間がありますよね。

この“迷って考える”時間こそが、実装中の設計。
つまり、名前をつけるという行為は、設計の続きをやっているということなのです。


🧩 名前付けは、構成要素を構造化する行為

責任を明確にするということは、
システムの中での「位置関係」や「役割の境界」を整理するということ。

それはまさに設計の核心である、
構成要素を構造化する工程と同じです。

名前付けをするとは、未完成の設計を補い、構造を明確にすること。
構造を明確にするとは、すなわち設計をすることである。
だから、命名は設計の最小単位なのです。


おわりに:名前付けで構造的な作品をつくる

もう一度、レゴの街を思い出してください。

ブロックを積むだけでは街にはなりません。
「ここは学校」「ここは病院」といったラベル(=名前)があるからこそ、街の意味が生まれます。

プログラムも同じです。
設計が「構造を考えること」なら、
実装は「構造を現実にすること」。
そして名前付けは、両者を言葉でつなぐ行為です。

  • 設計で決めた構造は、名前によって守られる
  • 名前を丁寧に扱えば、設計は長く生きる
  • 名前を雑に扱えば、構造は静かに崩れていく

設計とは責任分担の明確化であり、 その具体的な形こそが名前付けである。


💡 まとめ:上達の第一歩は“構造を意識すること”

  • 要件定義:使うレゴ(構成要素)を決める
  • 設計:どう組み合わせるか(構造を考える)
  • 実装:実際に組み立てる
  • 名前付け:組み立てたものにラベルを貼る

プログラミングの上達とは、
たくさん書くことではなく、どう組み立てるかを理解することです。
そしてその入口にあるのが――名前付け

今日から、変数や関数を作るたびに、
「これは何のブロックだろう?」と一度立ち止まってみてください。
その小さな意識が、あなたのコードを“構造的な作品”へと変えていきます。


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