はじめに
相談には、大きく分けて2つの種類がある。
ひとつは問題解決のための相談。
もうひとつは個性保全のための相談だ。
前者は「どうすればいいか」を探す。
後者は「どうありたいか」を見つける。
この区別を理解するだけで、人の話の聞き方はまったく変わる。
問題解決型の相談
問題解決型の相談は、対象が自分の外にある。
そこでは、感情よりも論理が重視される。
もやもやを分解し、原因を特定し、
どこから手を付けるかを決め、リソースを配分していく。
つまり、再現性と正しさを求める領域である。
個性保全型の相談
一方、個性保全型の相談は、自分自身が含まれている。
ここで求められているのは「正解」ではなく、「理解」だ。
相手が求めているのは、答えではなく「整理の機会」である。
この相談では、2つの整理が鍵になる。
- 情報の整理
- 感情の整理
🧩 情報の整理
まずは、相手の中にある情報を引き出す。
何が起きているのか、どんな要素が絡んでいるのか。
あなたが判断するのではなく、相手に語らせること。
あなたは、相手が語った情報をその世界の構造の中で並べなおす。
「こういう順序で起きているのかな?」
「ここが分岐点だったのかもしれないね」
といった軽い補助線で十分だ。
ただし、ここで解決策を提示してはいけない。
整理は支援できても、結論を出すのは相手の仕事である。
💭 感情の整理
感情の整理は、さらに繊細だ。
情報を整理しても、「もやもや」は残る。
そのもやに形を与えるのが感情の整理である。
だが、ここで絶対にやってはいけないことがある。
それは、「君はこう思っているんだね」とあなたの語彙で感情を決めつけることだ。
その瞬間、相手の感情はあなたの言葉の中に閉じ込められてしまう。
だから、感情の整理では、相手の言葉で感情をかたどることが大切だ。
相手の言葉をそのまま返し、
何度も繰り返し、ゆっくりと輪郭を描くように。
そのプロセスのなかで、相手は少しずつ自分の感情の形をつかんでいく。
整理とは、説明ではなく再構成である。
あなたがまとめるのではなく、相手が自分の言葉で自分を形づくっていくこと。
これが「感情の整理」であり、「個性保全」の核心だ。
🛩️ 飛行機と船の比喩
たとえば、相談者は「飛行機」、あなたは「船」だとしよう。
飛行機は言う。「なぜか前に進まないんです。」
船であるあなたは、海に浮かべたり、エンジンを見たりする。
だが、飛行機は海の上では飛べない。
船には飛行機の飛び方がわからない。
だから、あなたが飛び方を教えてはいけない。
あなたの役割は、飛び方を指導することではなく、
飛行機が自分の翼の構造を思い出すのを待つことだ。
□ 四角の比喩:正しさは、あなたの個性である
ひとつの四角(□)がある。
「これを使って、同じ図形を4つ作ってください」と言われたとしよう。
あなたは言うかもしれない。
「四角を4つに割ればいいじゃないか」と。
確かに正しい。だが、それはあなたの個性である。
相手は別の発想を持っていたかもしれない。
端を切って三角(△)を作るかもしれない。
円(〇)を描くかもしれない。
あなたが「正しさ」を提示した瞬間に、
相手の発想──つまり個性──は消えてしまう。
おわりに
個性保全の相談とは、相手の思考と感情を整理する手助けであり、
その人の個性を保全する行為である。
あなたがするべきことは、答えを出すことではない。
相手が自分の言葉で、自分を再構成できるように支えること。
個性保全の相談とは、飛行機の飛び方を教えないこと。
その静かな時間のなかで、人は自分の翼の形を取り戻していく。


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