はじめに
プログラミングを学び始めると、どうしても「コードを書くこと」ばかりに目が行きがちです。
ですが、現場でシステムをつくるときは 「コードを書くことは全体の一部分にすぎない」 という事実をまず理解しなければなりません。
システム開発は、一般的に次のような工程を踏んで進みます。
- 構想
- 事業企画
- 要件定義
- 設計
- 実装
- 試験
- 運用・保守
これは単なる順番ではなく、それぞれの工程に役割があり、ひとつでも欠けるとシステムは失敗します。
ただ、これを抽象的に説明しても初心者には伝わりづらいです。
そこで本記事では、建物づくりに例えてわかりやすく解説していきます。
この記事を読むことで次のことが学べます。
- システム開発の流れが直感的に理解できる
- 各工程で何を決めなければならないかが明確になる
- 「実装だけやればいい」という誤解が解ける
- 初学者が学習を進める上で、全体像を常に意識できる
失敗する開発には共通点があります。
それは「構想、事業企画、要件定義、設計を甘く見て、実装に突っ込んでしまうこと」です。
だからこそ、この記事では正しい工程の意味をひとつずつ整理していきましょう。
工程の全体像と役割
最初に、建物のたとえを使う前に、それぞれの工程の位置づけを整理します。
- 構想:なぜ作るのかを定める(理想と存在意義の明確化)
- 事業企画:どう成功させるかを設計する(戦略と収益モデルの構築)
- 要件定義:何を作るかを決める(機能と条件の具体化)
- 設計:どう作るかを描く(設計図の作成)
- 実装:設計に基づいて作る(コーディング・構築)
- 試験:きちんと動くかを確認する(品質保証)
- 運用・保守:使い続けるために支える(改善・修正・更新)
一見すると当たり前の流れですが、これを建物づくりに置き換えると一気にイメージが湧いてきます。
構想 = なぜ作るのかを定める(理想と存在意義の明確化)
建物づくりで最初にするのは、「なぜその建物を作るのか」を考えることです。
豪華なショッピングモールを建てたいのか、地域の人が集う交流の場を作りたいのか。
この“ありたい姿”が決まらなければ、設計も施工も動き出せません。
システム開発でも同じです。まずは 「なぜそのシステムを作るのか」 を明確にします。
- 社員の手作業を減らして、もっと創造的な時間を増やすため?
- 顧客との接点を増やして、ファンを育てるため?
- 業務を見える化して、経営判断を早めるため?
こうした“存在意義”がはっきりしていれば、
後の事業企画や要件定義の判断がブレなくなります。
👉 学び取れること
- システム開発は、理想から始まる。
- 理想(=なぜ作るのか)が曖昧なままでは、どんなに立派な機能を作っても目的を見失う。
事業企画 = どう成功させるかを設計する(戦略と収益モデルの構築)
建物を建てるとき、次に考えるのは「どうすれば成功するか」です。
立地はどこがいいか、どんな人が訪れるか、どんな体験を提供すれば選ばれるのか。
つまり、“理想の建物づくり”を現実にするための戦略設計を行う段階です。
システム開発でも同じで、構想で描いた理想を、どうすれば実現できるのかを具体化していきます。
- どの市場に参入するのか?
- どんな顧客を対象にするのか?
- 投資に対してどんな成果をどの期間で得るのか?
ここでの目的は、夢を数字と計画に落とし込むこと。
「成功の見取り図」を描くことで、チーム全体が同じ方向を向いて動けるようになります。
👉 学び取れること
- 事業企画は“成功するための戦略方針”。
- 戦略がないままシステムを作るのは、誰も使わないマンションを建てるようなもの。
- 成功は偶然ではなく、計画の精度から生まれる。
要件定義 = 何を作るかを決める(機能と条件の具体化)
建物を建てるとき、いよいよ「どんな部屋を、どんな形で作るか」を決める段階です。
エントランスの広さ、エレベーターの数、照明や配線の位置――。
設計図を引くための“具体的な条件”をひとつずつ明確にしていきます。
システム開発でも同じで、要件定義では 「戦略を支えるために必要な構成要素」 を洗い出します。
- どんな機能が必要か?
- どの水準の性能を目指すか?
- 利用者や運用担当者はどう関わるか?
ここでの目的は、「作るべきもの」と「作らないもの」を明確にし、
開発チーム全員が同じゴールを共有できる状態をつくることです。
👉 学び取れること
- 要件定義は“戦略を現実に落とし込む翻訳作業”。
- この段階で曖昧さを残すと、完成後のシステムは必ず揺らぐ。
- 言葉の精度が、そのまま“ものづくりの精度”になる。
設計 = 設計図を描く
建物なら、ここで建築士が図面を引きます。
- 部屋のレイアウト
- 配管や電気のルート
- 使用する素材
が決まります。
システムも同様に、設計が必要です。
- 画面設計(UI/UX)
- データベース設計(テーブルとカラムの定義)
- アーキテクチャ設計(API、サーバー構成、モジュール分割)
設計がなければ、現場の大工(プログラマー)は迷子になります。
👉 学び取れること
- 設計図があるからこそ、大規模な開発でも品質を保てる
- 設計抜きで実装に突っ込むのは「図面なしで家を建てる」行為
実装 = 工事をする
ようやく工事が始まります。大工が柱を立て、電気工事士が配線をし、配管工が水道を通します。
これがプログラマーがコードを書く「実装」にあたります。
- HTMLやCSSで見た目を作る
- PythonやJavaScriptでロジックを書く
- データベースをつなげて動作させる
現場感覚でいうと、この工程が一番「プログラミングらしい」と感じられる部分でしょう。
👉 学び取れること
- 実装はあくまで全体の一部であり、設計に従って進めるべきもの
- 職人の技術も重要だが、図面がなければ無秩序な建物になってしまう
試験 = 完成後の点検
建物が完成しても、すぐに引き渡せるわけではありません。
- 水道は漏れていないか
- 電気はつくか
- 窓やドアは正常に動くか
この「点検作業」が試験にあたります。
システム開発では、
- 単体テスト:部品単位で正しく動くか
- 結合テスト:機能同士が連携できるか
- システムテスト:全体として要件を満たしているか
を確認します。これを省略すれば「水漏れする家」と同じで、ユーザーが困るのは目に見えています。
👉 学び取れること
- 試験はコストではなく投資。「動作保証=信頼」そのもの
- 不具合は試験段階で見つけるのが一番安上がり
運用・保守 = 住んでからのメンテナンス
建物は建てたら終わりではありません。
- 雨漏りがしたら修繕する
- 壁が汚れたら塗り直す
- 家族が増えたらリフォームする
システムも同様に、完成後が本当の始まりです。
- バグ修正
- セキュリティアップデート
- ユーザーの要望に応じた改善
が必要になります。むしろここに一番コストがかかるケースもあります。
👉 学び取れること
- 運用・保守を意識しない設計は、将来的に「負債」になる
- 良いシステムは「長く安全に使える」ことまで設計に含まれている
建物のたとえから見える本質
ここまで見てきたように、システム開発と建物づくりは驚くほど似ています。
- 構想で目指すべき理想が定まる。
- 事業企画で成功への方向性が定まる。
- 要件定義で実現に必要な要素が揃う
- 設計で作業の基準が明確になる
- 実装で形が生まれる
- 試験で品質が保証される
- 運用・保守で寿命が延びる
もし「実装だけ」やろうとすれば、それは図面なしで大工に家を作らせるようなものです。
一時的には形になっても、長くは持ちません。
失敗するプロジェクトのほとんどは 構想、事業企画、要件定義、設計を軽視 しています。
反対に、これらを丁寧にやったプロジェクトは、結果的に開発も運用もスムーズです。
おわりに
システム開発を建物づくりにたとえると、初心者でも全体の流れをイメージしやすくなります。
- 構想=理想を描く(どんな建物を作りたいかを決める)
- 事業企画=戦略と収益モデルを立てる(どうやって成り立たせるかを考える)
- 要件定義=必要な機能と条件を具体化する(建物の部屋・設備・性能を決める)
- 設計=設計図を描く(実際に作るための図面を整える)
- 実装=工事を行う(設計に基づいて形にする)
- 試験=点検をする(安全性や機能を確認する)
- 運用・保守=メンテナンスを続ける(長く使えるように維持する)
プログラミングは「工事」そのものですが、それだけでは良いシステムは生まれません。
大切なのは、全体の流れを理解して自分の作業の位置づけを意識することです。
初心者の方は、ぜひ「コードを書く」だけでなく、システムが完成して使われるまでの物語全体をイメージしてください。
そうすれば、学習のモチベーションも上がり、実務に入ったときも迷わずに進めることができます。
📌 本記事のまとめ
- システム開発は「構想 → 事業企画 → 要件定義 → 設計 → 実装 → 試験 → 運用・保守」の流れで進む
- 建物づくりにたとえると直感的に理解できる
- 成功するプロジェクトは「構想」と「事業企画」と「要件定義」と「設計」を丁寧に行っている
- 運用・保守まで含めて考えるのが本当の開発


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